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ディスクレビュー:銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ』後編

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後編です。残り4曲、よろしくお願いします。

 

8.いちごの唄 long long cake mix

2の古舘祐太郎が主演を務めた同名映画の主題歌。映画は古舘演じる青年の無邪気さが観ていて眩しい作品で、曲の雰囲気もぴったりだった。

恋は人を綺麗にするというが、《恋に落ちてメタモルフォーゼ》なんてアイドルソングのようなフレーズは「恋の魔力」のあらわれだと思う。そんな力にやられた僕たちは、《夏の終わりのプールサイド》から《揺らぐ宇宙の果て》を通りぬけ《猫のあくび》まで、時間も空間も軽々と飛び越えていく。様々な恋の形を曲にしてきた峯田だからこそ描ける、一本のスケールのでっかい映画のような曲。

 

9.生きたい

2016年にシングルとして発表された曲。

正直、通して聴くには結構しんどい曲だと思う。12分という長尺もさることながら、この曲で歌われるのは、残酷で抗いようのない現実。だが、その非情さに打ちのめされそうになりながらも《生きたくってさ》と叫ぶ峯田の姿は、どこまでも愚かで、どこまでも美しい。

そしてこの曲は、「6年前の銀杏BOYZ」が「今の銀杏BOYZ」になるきっかけとなった曲だ。童貞でも童貞の代弁者でもない一人の「大人」となった峯田は、この曲を通して大人になった自らと真正面から向き合うことで、GOING STEADYの頃から付き合っていた青春の幻影と、ようやく折り合いをつけられたんじゃないかと思う。

自らの迷いを「捨てる」のではなく「抱きしめる」覚悟を決めた峯田はその後、「恋とロック三部作」で再び恋や青春を歌い始める。銀杏BOYZ、そして峯田和伸という男がもう一度前に進むために作った大事な曲なのだ。

 


銀杏BOYZ - 生きたい (MV)

 

10.GOD SAVE THE わーるど

前作に収録された「ぽあだむ」を彷彿とさせる、打ち込み主体の曲。

シンセをめいっぱい使った幻想的なサウンドが心地よい。一方で君との思い出を回想するような歌詞は、《ポケモンのキーホルダー》《LAWSONの駐車場》という具体的な言葉、そして《炭酸抜けたコーラ 口移しして》という、生々しさを感じさせる描写もあいまって妙なリアルさがある。サウンドと歌詞のギャップによって、恋愛特有の「なんとなく地に足がつかない感じ」が表現されているように感じる。

ぽあだむと比べ、初聴きのインパクトは小さいが、「生きたい」を聴いたあとの緊張感をほぐし、優しい気持ちにさせてくれる曲だ。

 

11.アレックス

アルバムラストを飾る曲。

Aメロ、Bメロで「君」との幸せな日々を歌い、サビでそれが妄想であることが明かされるという切ない別れの曲。だが不思議と悲壮感はなく、爽やかな後味を残してくれる。

この曲を何度か聴いた時、スピッツの名盤『ハチミツ』のラスト「君と暮らせたら」を思い出した。《可愛い歳月を君と暮らせたら》と妄想に浸りながら《眠りの世界へとすべり落ちていく》という、夢(妄想)オチというテーマがどことなく共通している気がしたのだ。だからなんだと言われればそれまでだが、恋や性との向き合い方について根底が少し似通っている両者の作品が、ここにきて少し重なって見えたのが個人的にちょっと嬉しかった。

アウトロが終わると一瞬の無音を挟み、レコードのノイズと静かなピアノが流れる。まるでアルバム全体のエンドロールのようなメロディーと共に、優しい余韻を残して本作は終わる。

 

銀杏BOYZと切っては切れない「恋と青春」について、今だからこそ歌える言葉で表現した11曲。エゴであることを承知で書くと、今作で魅せた新たな銀杏BOYZの姿が、6年前に銀杏から離れてしまった人の心に、再び小さなさざ波を立ててくればいいなと思う。少し大人になったけど、あの頃と同じまっすぐな情熱を、峯田はまだ燃やし続けている。 

ねえみんな大好きだよ

ねえみんな大好きだよ

  • 銀杏BOYZ
  • ロック
  • ¥2444